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最高裁判所第二小法廷 昭和42年(オ)872号 判決 1968年7月19日

上告人(被告・控訴人・付帯被控訴人) 林松保

右訴訟代理人弁護士 後藤三郎

被上告人(原告・被控訴人・付帯控訴人) 陳世英

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人後藤三郎の上告理由第一点について。

原審が本件手形の原因として、被上告人と上告人の代理人陳芝芳および訴外林総明との間で、被上告人が上告人に対し、上告人において建築中の建物の請負代金の支払に充てるための資金を融通したときは、上告人は被上告人に対し金銭消費貸借上の債務を負担することを内容とする契約が成立した事業および右契約の成立後、右上告人らと被上告人との間で、約旨に基づき被上告人が上告人に直ちに融通すべき金五〇万円については、被上告人において直接これを上告人に交付する代りに、上告人から同額の請負代金の支払を受けるべき訴外井上玉一郎に右代金の弁済として送金する旨の合意が成立し、右合意に基づいて被上告人が井上に金五〇万円を送金し、同人が受領したことにより、被上告人は上告人に対し同額の消費貸借上の債権を取得するに至った事実を認定したものであることは、その判文に徴して明らかであるから、原判決に所論の違法はない。論旨は採るをえない。

同第二点について。

所論の各点に関する原審の事実認定は、原判決(その引用する第一審判決を含む。)の挙示する証拠関係によって是認するに足り、原判決に所論の違法はない。論旨は、ひっきょう、原審が適法にした証拠の取捨判断、事実の認定を非難するに帰し、採るをえない。<以下省略>

(裁判長裁判官 奥野健一 裁判官 草鹿浅之助 裁判官 城戸芳彦 裁判官 石田和外 裁判官 色川幸太郎)

上告代理人後藤三郎の上告理由

第一点原判決は、以下述べるとおり理由不備の違法があるので破棄せらるべきである。

一、原判決は、本件約束手形は、当初設定された対価関係が失われたことを認定し、被控訴人の主位的主張を斥けているが、つぎの理由により新たに原因関係が設定されたとなし、結局金五〇万円の限度で予備的主張を容認している。

すなわち、

(一) 昭和三八年一月下旬頃、被控訴人と控訴人林聡明及び同林松保の代理人林陳芝芳との間に、建物建築資金を本件手形の支払期日まで金策のでき次第、控訴人林松保に遂次融資する旨の融資契約が成立したこと。

(二) 同日、右当事者間において、右融資金の弁済を確保するために本件手形を担保に供する旨の合意が成立したこと。

(三) 昭和三八年二月一二日、被控訴人は同人方において、右融資金の使途の確実を期するため、控訴人林松保と建築業者井上玉一郎との間で従前の請負契約の確認並びに今後の請負工事契約を締結させ、控訴人林聡明及び被控訴人、並びに訴外宮本一男は立会人となったこと。

(四) 右契約の際、被控訴人の控訴人林松保に対する融資の方法として、該金員は被控訴人から直接井上に送付することによって、これを行うことができる旨の、約定が被控訴人と控訴人林松保との間に成立したこと。

(五) 被控訴人は、昭和三八年二月一八日、右請負代金のうち、金五〇万円を控訴人林松保に代り訴外井上玉一郎に弁済のため送金し、同訴外人はこれを受領したこと。

以上の事実認定に基き、本件手形は、右金員送付によって被控訴人の控訴人林松保に対して有する債権が原因関係となりその支払確保の担保となっているから、結局、右金五〇万円の限度で被控訴人の本件手形金請求を容認している。

二、しかしながら、右事実認定の違法については、後述するが、それはさておき、原判決は、(1) 本件手形の原因関係の前提となる担保契約が何であるか、又(2) 本件手形の原因関係をなす被控訴人林松保に対する債権が何であるかについては、全然明らかにしていない。

(一) 原判決は、被控訴人と控訴人林松保との間に融資契約が成立し且つ右融資金の弁済を確保するために、本件手形を担保に供する旨の合意が成立し、新たな実質上の契約に基づく原因関係が設定されたと述べている。

しかしながら、右の融資契約とは、当事者の経済的目的の表現としては理解しうるが、それが法律上いかなる権利義務を生ぜしめるかは全く不明瞭である。

一般には金銭消費貸借契約の趣旨かとも思われるが、原判決は右融資契約によって、被控訴人が控訴人等に対し、いかなる法律上の要件の下に、いかなる法律上の権利を取得するかを明らかにしていないのであり、従って本件手形を右融資契約の担保に供したいといっても、法律上如何なる債権が本件手形によってどのように担保されたのか判然しない。

(二) つぎに原判決は、被控訴人が控訴人林松保に対する融資の方法として、該金員は被控訴人から直接井上に送付することによってこれを行うことができる旨の約定が当事者間に成立していたというが、これによって被控訴人は、控訴人林松保に対していかなる債権を取得するのか明瞭でない。原判決は、「原告の被告林松保に対して有する債権」とのみ判示して、その債権の特定をしない。

(三) これは、結局、原告の主張を明確にさせないまま、漠然たる事実を認定したものであり、これでは、原判決がどのような事実認定をしたのか、又どのような事実に基いて、いかなる法規を適用して、債権の発生を肯定したのか、その理由が論理上少しも明確でない。

従って、原判決は民事訴訟法第三九五条第一項第六号にいう判決に理由を附しなかった違法があると信ずるので破棄さるべきである。

第二点<省略>

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